つばさの軌跡

京大卒。新卒の2018年春、鳥取県智頭町に移住し、社員2名の林業会社に就職。林業家を志す。働くこと、食べること、寝ること、話すこと、住むこと...。自分の人生の時間を分けることなく、暮らしの所作、その一つ一つに丁寧に向き合って、精一杯生き抜くことが目標。

僕の憧れるひと:山地酪農家・中洞正さん

経済合理性よりも、大切なことがある。

そう、信じています。

 

「お金がなきゃ、続かない」

「守るものがないから、そんなことが言える」

「夢だけじゃ食っていけない」

 

そんなことは、知っている。

二兎を追うことは、一兎を追うよりも難しい。

もう、言われなくても、当たり前だ。

当たり前のことを、何度も言わなくてもいいじゃないか。

 

もっと夢を語ろう。

もっと楽しい話をしよう。

そこにどんなに困難なことがあっても。

分かち合えば、助け合える。

仲間になれば、応援し合える。

 

そんなふうに思わせてくれた言葉があります。

 

 

「夢を追わなきゃ、青春じゃないだろう!」

 

 

これを聞いたのは、岩手の酪農家の人から。

この方の人生を知ってほしくて、この記事を書きます。

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いまでも現場に出続ける、中洞(なかほら)正さん。

 

青臭くても、自分の信じた夢を追い続ける。

その姿に、心を打たれます。

 

酪農家の方なので、唐突ですが、「牛乳」の話から。

「牛乳」の裏側、みなさん知ってますか?

僕も半年前まで、まったく知りませんでした。

読み始めた方、ぜひ最後まで。

 

目次

 

 

酪農に押し寄せた、近代化の波 

 

戦後、酪農には大きな波が押し寄せました。

近代化、そして効率化です。

一頭あたりの乳量を多くすることを目的に、

今日多くの乳牛は牛舎で密飼い、輸入の濃厚飼料を食べています。

その方がコストが下がり、生産性があがるのです。

 

特に、牛の牛舎飼いが進んだのは1987年。

農協に出荷する生乳の取引基準が「乳脂肪率3.5%以上」とされ、

それ以下の生乳は半値で買取とされたことが大きな要因です。

 

これが何を意味するか。

自然放牧の牛は、春から夏にかけて青草を多く食べる頃、

乳脂肪率が3.5%を下回ることもあり、安定しません。

では、常に3.5%を超えるためには?

それは高カロリーの輸入濃厚飼料を与えていれば可能です。

つまり、この規定は実質、半強制的な牛舎飼い。

日本の酪農は放牧を捨てざるを得なかったのです。

 

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市販の牛乳には、「3.6」「3.7」など、乳脂肪率が書かれています。 

 

幸せな牛から、おいしい牛乳

 

この大波の中で、24時間365日の自然放牧を実現したのが、

岩手県岩泉町・「なかほら牧場」中洞正さん。

標高700mを超える広大な山地に、約90頭の牛を放牧しています。

餌は、基本的に自生する野シバ。

この「山地酪農」という方法で、牛を飼っています。

nakahora-bokujou.jp

 

 

効率ではなく、自然の摂理を一番に。

その中で人間は、循環のサイクルを手助けする存在になるのだと言います。

そのため、交配、受精、分娩も牛まかせ。

年を重ねて乳量の減った牛も飼い続け、20年近く生きた牛もいます。

 

一方で近代酪農では人工授精を繰り返し、乳量の減った牛は肉牛として処分。

密飼いで病気にもかかりやすく、平均寿命は6~7年です。

「牛がしあわせだからこそ、おいしい牛乳ができる」と中洞さんは語ります。

 

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「なかほら牧場」での放牧の様子。牛乳のパッケージにあるような放牧はもうほとんどないのだそう。 

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標高約700m。豪雪の北上山系でも、たくましく生きる牛たち。

 

一本1000円の牛乳を売る

 

中洞さんの飼い方は、経済合理性からは逸脱します。

乳量はとても少なく、通常の約1/5だそうです。

 

けれど、それは牛や自然という生き物に、

真正面から向き合い、その幸せを第一に考えるからこそ。

 

その結果、できる牛乳は一本1000円というもの。

しかも、先に述べたように、この牛乳は農協には出荷できません。

乳脂肪率が安定しないためです。

 

だからこそ、牛舎飼いを進める行政と袂をわかち、

中洞さんは、牛乳の生産・加工・販売を一貫して行う牧場づくりを、

まさにゼロから創り上げてきました。

その期間、40年以上。

気の遠くなるような夢を、追い続け、実現してきたのです。

 

この理念や生き様に惹かれ、

「なかほら牧場」には、毎年200人以上の研修生が訪れます。

若者も多く訪れます。

 

僕も、去年ここを訪れ、ここの場所、ここのひとに魅了されました。

今年の夏もまた訪れようと思っています。

 

 

ここに書いたのは、ごくごく一部で、

もっと深い牛乳の話が、

もっと壮絶な中洞さんの人生があります。

興味を持ってくれた方、本かHPで見てみてください。

あるいは、いっしょに現地へいきましょう。

目の前に広がる景色に、成し遂げてきたことの大きさに、呆然とします。

 

山地酪農家 中洞正の生きる力 (ソリストの思考術)

 

 

僕の憧れのひと、憧れの生き方です。

僕も、ずっと青春でいられるように。

 

つばさ